「ずっと同じ」。「これからも同じ」。それが、本物を漉くために大事なこと。

今日も紙の里で…

長良川の支流、清らかな水をたたえる里山で、職人は和紙を漉きます。整然と、そして粛々と…。
寒い季節の方が良い紙が漉けます。
凍てつくような水の中から真っ白の白皮となった楮をすくい上げる…。
そこから、本美濃紙の職人仕事が始まります。

本美濃紙に使われているのは、茨城県で栽培される最高級の大子那須楮(だいごなすこうぞ)。落葉後に収穫し、黒皮を取り除き、美しい白皮だけを残したものです。この白皮1束(15kg)のうち、紙の原料として使えるのは44%(6.6kg)。楮は光沢があり、さらに雁皮(がんぴ)や三椏(みつまた)に比べると繊維が長いため、美しい和紙が漉けるのです。製品となった和紙の重さは約20g。6.6kgの原料から330枚の和紙ができるのです。

川晒し・水晒し

川晒し

水晒し

大子那須楮の白皮を清流に数日間浸し、自然漂白させるとともに不純物を取り除きます。

職人の元に届いた楮の白皮は、まず水に浸けて柔らかくし、繊維をほぐすために大きな鉄釜に入れて煮、灰汁(あく)を抜きます。燃料は薪。火加減を調節しながら、「煮熟」します。煮熟してしんなりした楮は、流水の中できれいに洗われます。人の手で、丁寧にゴミを取り除きます。きれいになった楮を石盤の上に乗せ、繊維を離解するために木槌で叩きます。本美濃紙の場合は、叩く面が菊模様になっており、短く離解することができます。

煮熟

煮熟

繊維を軟らかくするソーダ灰を入れた湯に白皮を重ならないように入れ、約2時間煮ます。火を止めてから2時間ほど蒸らし、繊維を落ち着かせます。

塵取り

塵取り

煮熟した白皮を熟練した人の手で、1本ずつ清流に浸しながら塵や傷を取り除きます。わずかな不純物も残らないように、この作業を二度繰り返します

叩解

叩解

本美濃紙独自の形をした丸槌で手打ちします。打つ面には、菊の花のような放射線状の筋が彫られています。

叩解した楮を漉き舟に入れ、水、そして繊維同士を強く繋げるために濾したとろろあおいの粘液と混ぜ合わせます。しっかり撹拌し、やっと紙を漉く作業に入ります。桁に竹簀をはめ込みます。竹簀は、つなぎ目を斜めに切って合わせた「そぎつけ」。これが、本美濃紙の特長である繊細な漉き跡になるのです。職人の腕が縦、縦、横、横と、竹簀を動かします。通常の和紙は縦揺りのみで漉かれますが、本美濃紙では横揺りを加えます。これにより、繊維が整然と絡み合った美しい和紙が漉けるのです。

紙漉き

紙漉き

紙漉き

本美濃紙は、縦揺りにゆったりとした横揺りを加えるのが特徴。これにより楮の繊維が縦横に整然と絡み合い、陽の光を透かして見たときの美しい地合が作り出されます。

乾燥

乾燥

十分に水分をしぼり出した後、木目の少ない栃の板に貼り付け、天日で乾燥させます。日光によって紙が自然漂白され、上品な艶と色合いを持つ本美濃紙の風合いになります。

漉いた和紙は1晩置いて自然に水を流しさり、その後、圧搾して余分な水分を抜いてから天日で乾燥します。最後に裁断し、選別をしてから出荷します。
紙漉き職人は、これだけの工程をほとんど1人でこなします。本美濃紙1枚1枚は、職人1人1人が技の全てを惜しみなく注ぎ込んだ、情熱の結晶なのです。

選別

選別

乾燥の終わった紙は、厚さだけでなく、紙の色合いや地合によって厳密に分類。陽に透かされて鑑賞される最高級品の本美濃紙を保つためには欠かせない作業です。

用語

大子那須楮

大子那須楮

本美濃紙の原料は、最高級の茨城県の大子那須楮のみ。楮の繊維は太くて強いため、紙に適しています。

木槌

木槌

繊維を叩解する木槌は、本美濃紙特有の形で、打つ面には菊のような模様が入っています。

ねべし

ねべし

とろろあおいの根から抽出した「ねべし」。繊維を強く繋ぎ合わせてくれます。

漉き簀作り

漉き簀作り

ひごの先を斜めにそぎ、そいだ面を合わせて編んだ「そぎつぎ」が特徴。紙を陽にかざすと、整然とした糸目跡が見られます。糸目は細いほど品が良いとされます。

こて(けた)作り

こて(けた)作り

こて(桁)の材料は上等な木曽桧、簀をのせる針金は硬い真鍮を選んで使います。

刷毛作り

刷毛作り

干し板に紙を貼る際に使う刷毛は、厳選した馬毛を軟らかい毛・硬い毛・並み毛に分け、職人の求めに応じて作られています。